■「価値観」と「ミッション」を明確化することの大事さ
キャリア選択の難しさ
これまで,研究に近いところにいる人がキャリア選択に迷っているのを多く見てきました (樫原もその一人です)。研究者の場合,安定した収入をいかに確保するかで悩む人は多いように思います。でもこの悩みは,案外単純におさまるもののような気がします。「どうしてもこの研究がやりたい」と明確に思えている人は,放っておいても「やれるところまでやってみよう」という境地に行き着くことが多いです。
本当に難しいのは,「あれもこれも大事なのはわかるが,一体自分は何を優先すべきなのか」と迷っている場合。世の中には様々なライフスタイルがあり,幸せの形も人それぞれ。また,「研究者になる」といっても,その中身は千差万別です。研究者を志したはずが,教育や庶務に日々追われるうちに「これで良かったのだろうか」となってしまうケースも多いように思います。
様々な選択肢が目の前にちらつく中で,周囲の事情に流されすぎず,後悔のないキャリア選択を行うためには,「価値観」と「ミッション」を明確化するしかないのではないか,と私は考えています。自分が何を望んでいるのかという自問自答は,やる前はしんどく感じますが,やってみると案外気持ちよかったりします (カウンセリングに行くのも1つの手です)。一番怖いのは,自分ではなく,周りから「お前は結局どうしたいんだ!」という問を突きつけられるケース。この問を突きつけられたときのダメージは甚大だと思います。
しっかり自問自答した上での結論であれば,どんな選択であっても良いだろうと思います。ときどき,「研究者である自分はえらい」と言わんばかりの態度の人に出くわしますが,職業がその人の「えらさ」を決めるなんてことはないと思います。惰性や見栄で研究にしがみつく人よりは,すぱっと見切りをつけて別の道を歩む人の方がよっぽど「えらい」です。どんな職業であれ,晴れやかな顔で日々生きている人が「えらい」と私は考えています。
「価値観」と「ミッション」の違い
キャリア選択の上では,まず「自分が幸せを感じるのはどんなときか」という価値観を明確にしておくことが重要だと思います。知的好奇心を満たしたい,困っている人の役に立ちたい,お金がほしいなど。人それぞれの行動原理と言い換えてもいいかもしれません。なにか趣味があるなら,「その趣味のどんなところが特に面白いのか」を考えるのも役に立つでしょう。自分にとっての「幸せ」の価値基準が明確化すれば,大まかなキャリアの方向性が決まります。
価値観が明確化され大まかな方向性が決まったあとは,「その方向性の中で,自分は具体的にどの部分に携わるのか」を選択する必要が出てきます。「困っている人の役に立ちたい」という価値観があっても,その実現方法は千差万別です (研究・臨床・事務仕事etc.)。
そこからは,「自分にとってのミッション (使命) とはなにか」と自問自答していくと良いと思います。「自分はこれをするために生まれてきた」とか「他の人には任せない,だれにも譲れない」というポイントを見つけましょう,ということです (樫原はカトリック系の中高に通っていたため,こうした言葉になるのかもしれません)。
「このスキルや知識は自分しかもっていないので,これをミッションとする」よりは,「自分はどうしてもこれにこだわらずにはいられないので,これをミッションとする」という決め方がおすすめです。スキルや知識は「やれば誰でも身に付く」「上には上がいる」という類のものです。また,「磨き続けよう」という気持ちがついてこなければ,どんなスキルや知識もいずれは錆びつきます。反対に,「自分はこれをやりたい,やるんだ!」という意気込みは,その人にしかない,誰とも比べることのできない持ち味だと思います。