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■書類作成のコツ

まず,「読み手が理解しやすいように」という意識をもつ

アカデミック・ポートフォリオにも研究費の申請書にも共通する「文章を書く」という作業は,研究者の仕事の核と言っていいぐらいに大事な作業だと思います。自分のキャリアを切り拓きたいと切に願っている人は,書類の1つ1つを作成する際に,「読み手の理解を促すための努力を惜しまない」ということを意識すると良いと思います。

最近,他人の文書についてコメントする機会が増えてきましたが,それらの文書には「導線が混乱していて,何が言いたいのかすっと頭に入ってこない」というものも多くあります。そうした文書をもとにミーティングをするとなると,内容の意味を説明してもらうだけですぐに時間切れとなってしまいます。何が書いてあるのか一発でわかるような文書ならば,「あなたの考えはわかったが,こちらの線も検討してみては?」という新たなアイデアを示すことができるのですが。その方が,案件がとんとん拍子で進みます。

筆が遅く,わかりやすい文章にするためのブラッシュアップまで手が回らないという人は,取り掛かるタイミングを早くすると良いでしょう。また,書店のビジネス書コーナーには,Word, Excel, PowerPointあたりを使いこなすテクニックをまとめた良い書籍が沢山あります。それらの書籍を読んでみるだけでも,作業速度はずいぶん変わってくると思います。

読みやすい文書を作成するコツ①:文書全体のメッセージを明確にする

「工夫が大事」という意識をもち,文書作成ソフトのテクニックを磨いたとしても,それだけでわかりやすい文書が出来上がるわけではありません。「わかりやすい文書」は,「論の流れが明瞭な文書」と言い換えられますが,ここからは「どうすれば論の流れが明瞭になるのか」を4ステップに分けて説明してみます。

まず,文書全体のメッセージを明確にすることが大事です。当たり前に聞こえるかもしれませんが,これができていない文書は世の中に多いです。「ある治療法の効果について検討した」という論文でも,話があちこちに飛んでいるうちに,「効果があると言いたいのか,ないと言いたいのか,どっちなんだ?」という印象になることがあります。

おそらく,メッセージの明確でない文書は,「この主張でいいのかなあ」と迷いながら作成されたものなのだと推察します。どの主張を取るのかは,文書を作成する前によく吟味することが大事です。あるいは,「効果があるのかないのか判断がつかず迷っていて,みなさんの意見がほしい」と,勇気をもって率直に表明することも良いでしょう。吟味も勇気も欠けていた文書だと,読み手はただただ混乱するばかりです。

読みやすい文書を作成するコツ②:各段落のメッセージを明確にする

ひとことで言えば,「パラグラフライティングのやり方を会得しましょう」ということです。文書全体のメッセージが決まれば,各段落で述べるべきメッセージもある程度明確になります。各段落のメッセージは,原則段落の冒頭で表明するようにしましょう。冒頭のトピックセンテンスに続け,そのメッセージを支持するための情報を並べていけば,わかりやすい段落の出来上がりです。

読みやすい文書を作成するコツ③:段落間のつながりを明確にする

ひとことで言えば,「接続表現の使い方を会得しましょう」ということです。「しかし」「さらに」「ところで」等の強いメッセージを段落冒頭に適宜配置すれば,段落間で話題がどのようにつながっていくのか,ひと目でわかるようになります。

それと,逆接表現をやたらと多用したがる人が多いですが,これは避けましょう。裏の裏は表なので,「振り出しに戻ったが,いったい何が言いたいんだ」という文章になってしまいます。

読みやすい文書を作成するコツ④:各文の構造を簡素にする

ここまでのステップをうまくこなせているのに,それでもなおわかりづらい文書は沢山あります。1つ1つの文がわかりづらければ,どうしても内容についていけなくなります。

最小単位である文をわかりやすくするコツは,「簡素にする」という一言に尽きます。主語と述語の位置を離れさせない,1文を短くする,修飾表現の数を絞る,など。例えば,「樫原は,当時司法大臣であった山田顕義が1889年に創立した日本大学に2016年から在籍している」という文章は,なんのことだかよくわかりません。「樫原は,2016年から日本大学に在籍している。日本大学は,当時司法大臣であった山田顕義が1889年に創立した」の方がずっとわかりやすいです。

 

簡素な文を連ねるという書き方は,最初は機械的で不自然なものに思えるかもしれません。でも,科学系の文書は「事実を正確に伝え,こちらのメッセージをわかってもらう」ことが目的なので,多少機械的でも良いのです。昭和の文豪のような,回りくどい名文を書く必要はありません。

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